平成16年度の活動

1. メンバー・研究支援

• 21世紀COEプログラム「物質機能の科学的解明とナノ工学の創出」（拠点リーダー：三宅和正）
• 科学技術振興事業団・戦略的基礎研究推進事業（CREST） 領域「量子情報処理システムの実現を目指した新技術の創出」(総括：山本喜久) 研究課題「光子を用いた量子演算処理新機能の開拓」(代表：井元信之)　実施項目「多者間光子情報処理の研究」(グループリーダー：井元信之)
• 科学技術振興事業団・戦略的基礎研究推進事業（SORST）研究課題「相関エレクトロニクス研究」（代表：平山祥郎） 実施項目「量子演算の研究」（グループリーダー：シャヒン・オズデミル）
• 科学研究費補助金・基盤研究(B)「強い非線形光学効果を用いない量子情報処理の研究」（代表：井元信之）

2. 研究活動の概略と主な成果

• 通常のレーザー光を用いた量子暗号の無条件安全条件を雑音・損失等の仮定のもとに求めた。位相にビット値を載せる手法の安全性証明はこれが初めてである。その結果、通常の光源を用いた場合に安全に行える通信レートは、単一光子源の場合に比べ遜色ないこともわかった。[3]
• 線形光学を用いた量子演算の例として光子を４つしか用いないC-NOTゲート実験系を提案した。これはクラスターステートへの発展性のあるスキームとなっている。[8]
• 閾値型量子秘密分散を提案し具体的手順の例を示した。閾値型秘密分散は現代暗号（量子でない通常の暗号）の一概念であるが、第三者による偽造を阻止することはできない。今回の発案は量子を用いているので偽造を許さない閾値型秘密分散になっている。[7]
• 通常のゲーム理論に現れるゲームにおいてプレーヤー間にエンタングルメントを持たせるいわゆる量子ゲームにおいて、量子情報源への雑音の影響を調べた[1]。また古典相関とエンタングルメントの効果を比較し、主だった２パーティゲームにおいては、量子エンタングルメントを利用することによりジレンマが解消できること、量子でなくとも古典相関でもジレンマが解消する場合もあるがエンタングルメントほどの効果がないこと、等を明らかにした[5]。また３パーティゲームにおいて量子ゲームが古典ゲームを特別な場合として含み得るかという問題を検討し、GHZ状態をプレーヤーに配布した場合は問題ない（含み得る）がW状態ではいかなる場合も古典ゲームを再現しない（含み得ない）ことを明らかにした[2]。
• 量子ビットとして半導体量子ドットを用いた場合の得失を考察するためにエンタングルメント制御の可能性を理論的に検討した。特にエキシトンと制御光との相互作用を仮定してエンタングルメントの形成について解析した。またKraus表現による理論形式を呈示し、散逸の影響を論じた。[4]

3. 発表リスト

• 学術論文
  • [1] S. K. Ozdemir, J. Shimamura, and N. Imoto: "Quantum advantage does not survive in the presence of a corrupt source: optimal strategies in simultaneous move games," Phys. Lett. A325, pp.104-111 (2004).
  • [2] J.Shimamura, S. K. Ozdemir, F. Morikoshi, and N. Imoto: "Entangled states that cannot reproduce original classical games in their quantum version," Phys. Lett. A328, pp.20-25 (2004).
  • [3] M. Koashi: "Unconditional security of coherent-state quantum key distribution with a strong phase-reference pulse," Phys. Rev. Lett., Vol.93, 120501 (2004).
  • [4] Yu-xi Liu, S. K. Ozdemir, A. Miranowicz, and N. Imoto: "Kraus representation of a damped harmonic oscillator and its application," Phys. Rev. A70, 042308 (2004).
  • [5] S. K. Ozdemir, J. Shimamura, F. Morikoshi, and N. Imoto: "Dynamics of a discoordination game with classical and quantum correlations," Phys. Lett. A333, pp.218-231 (2004),
  • [6]J. Shimamura, S. K. Ozdemir, F. Morikoshi and N. Imoto:“Quantum and classical correlations　between players in game theory,”Int. J. of Quant. Inf., 2/1, 79 (2004)
  • [7] Y. Tokunaga, T. Okamoto, and N. Imoto: "Threshold quantum cryptography," Phys. Rev. A71, 012314 (2005).
  • [8] Y. Tokunaga, T. Yamamoto, M. Koashi, and N. Imoto: "Simple experimental scheme of preparing a four-photon entangled state for the teleportation-based realization of a linear optical controlled-NOT gate," Phys. Rev. A71, 030301 (2005).
• 総説、著書
  • 山本　俊:「エンタングルメントの抽出」 光学, 33巻5号, pp.294-296 (2004).
  • 並木亮、平野琢也: 光学から見た量子通信・鍵配布, 光学, 2004年8月号
  • 井元信之：「量子工学」imidas'05, pp.863-867 (集英社, 2005).
• 国際会議（一般）
  • Y.Tokunaga, T.Yamamoto, M.Koashi, N.Imoto: “A four-photon entanglement for linear optical quantum information processing,” The Seventh International Conference on Quantum Communication, Measurement and Computing, Glasgow, UK,.AIP conference proceedings series. Vol.734, pp.350-353, 2004/7/26.
  • Y.Tokunaga, T.Yamamoto, M.Koashi, N.Imoto: “A scheme of teleportation-based CNOT with linear optics,” Quantum Information and Quantum Control Conference, Toronto, Canada, 2004/7/19.
  • T. Yamamoto, J. Shimamura, S. K. Ozdemir, M. Koashi, and N. Imoto: "Robust distribution of a qubit over collective-noise channel," International Workshop on "Materials Science and Nano-Engineering," Osaka,Japan.(Poster) 2004/12/11-14.
  • N. Imoto, "Development of photonic quantum-information-processing functions," Int. Conf. on Nanoelectronics, Nanostructures and Carrier Interactions (NNCI 2005), Atsugi, Kanagawa, Japan (2005).
• 国際会議（招待）
  • N.Imoto: "Mirrors in time domain," The Seventh International Conference on Quantum Communication, Measurement and Computing, Glasgow, UK, 2004/7/28.
  • N.Imoto: "Quantum information processing with realistic linear and nonlinear optics," Nonlinear Optics : OSA Tropical Meeting on Nonlinear Optics: "Materials, Fundamentals and Applications" (NLO 2004), Waikoloa, Hawaii, 2004/8/2.
  • M.Koashi： "Unconditionally secure QKD with strong phase-reference pulse," EQIS2004, Tokyo, Japan, 2004/9/3.
  • N.Imoto: "Useful linear and nonlinear optics in quantum information processing," Photonics ASIA 2004, Beijing, China, 2004/11/10.
  • M.Koashi: "Unconditional security of phase-coded quantum key distribution with strong reference pulse," Photonics ASIA 2004, Beijing, China, 2004/11/10.
  • M. Koashi: "Security of quantum key distribution with strong phase-reference pulse," The first Asia-Pacific Conference on Quantum Information Science, Tainan, Taiwan, 2004/12/12.
  • N. Imoto: "Sending entangled photons: noisy-channel experiments and beyond QKD," 1st Asia-Pacific Conference on Quantum Information Science, National Cheng Kung University, Tainan, Taiwan, 2004/12/9-14.
• 研究会（一般）
  • 島村淳一, S. K. Ozdemir, 森越文明, 井元信之：“Original classical games cannot be reproduced in their quantum version with W state,”第10回量子情報技術研究会（QIT10）, 学習院大学, 151, 2004/5/24
  • 山本俊, 島村淳一, Sahin Kaya Ozdemir, 小芦雅斗, 井元信之:「信号光子と補助光子を用いた雑音に耐性のある量子情報通信」 日本物理学会2004年秋季大会, 青森大学, 14pTF-11, 2004/9/14.
  • 小芦雅斗：「コヒーレント光による量子鍵配送の無条件安全性」 日本物理学会2004年秋季大会, 青森大学, 2004/9/15.
  • 並木亮, 平野琢也：「ポストセレクションをおこなう連続変数の量子暗号の現実環境下の安全性」 日本物理学会2004年秋季大会, 青森大学, 15aTF-12, 2004/9/15.
  • 島村淳一、S.K.Ozdemir、森越文明、井元信之："The role of entanglement in quantum versions of classical games, "NNCI2005, Atsugi Royal-Park Hotel, 2005/1/31
• 研究会（招待）
  • 山本俊：「線形光学素子を用いたエンタングルメント抽出」, 第２９回原子衝突研究 協会研究会, 2004年8月.
  • 井元信之：「量子情報処理入門」, 第42回茅コンファレンス, 宮城蔵王ロイヤルホテル, 2004/8/22.
  • 井元信之：「光子を用いた量子情報処理」, 第42回茅コンファレンス, 宮城蔵王ロイヤルホテル, 2004/8/23.
  • 井元信之:「光による量子通信の実現性」電子情報通信学会シンポジウム, 徳島大学, AT−４−１「量子通信・量子計算の可能性と情報セキュリティへのインパクト」 2004年9月23日.
  • 井元信之:「量子情報通信研究の現状」電子情報通信学会チュートリアルシンポジウム, 徳島大学, CS−１−１「量子暗号通信の最新状況とそれを支える光デバイス」 2004年9月23日.
  • 山本俊：「光子を使った集団的雑音に耐性のある量子情報通信」量子情報処理シンポジウム, 一橋記念講堂、東京, 2004/12/20-21.
  • 井元信之：「線形光学を用いた量子情報処理」量子情報処理シンポジウム, 一橋記念講堂, 東京, 2004/12/20.

4. 交流活動

• 学会および社会的活動：
  　前年度に引き続き電子情報通信学会量子情報技術研究時限専門委員会の委員、科学技術振興事業団さきがけ研究21「光と制御」領域アドバイザーを務めた。また新たに５月〜11月文部科学省「光・光量子科学技術の推進方策に関する検討会」委員を務めた。(井元)
  　前年度に引き続き通信・放送機構(NICT)委託研究専門委員および学術誌「Physical Review A」のEditorial board memberを務めた。（小芦）
• 他大学での講義、客員：
  
  • 井元信之:「エンタングルメントと量子情報処理」岡山光量子科学研究所セミナー, 岡山理科大学, 岡山, 2004年9月24日.
  • 井元信之:「量子情報処理の現状と展望」奈良先端科学技術大学院大学セミナー, 奈良先端科学技術大学院大学, 生駒, 2004年11月4日.
  • 井元信之: 「量子情報処理の首根っこ」第２次量子コンピュータ新技術探索型討論会第４回会合, 発明会館, 東京, 2005年1月14日.
  • 井元信之:「量子情報処理と光学素子」日本オプトメカトロニクス協会技術研修会, 機会振興会館, 2005年1月21日.
  • 井元信之:「量子コンピューティングと物性科学」第54回分子科学フォーラム, 分子科学研究所, 岡崎, 2005年1月25日.