光子数のQND測定は光のエネルギー(強度)を壊さずに測定する方法である。ただしこのとき位相は乱す。QND測定は光情報処理における情報分岐やタッピングにおける量子雑音の混入を避けることや光計測における精密測定などへの応用が考えられる。最近(1998年時点)の話題に関連して言えば、量子暗号における盗聴手段(もちろんそれは失敗しなければならないのであるが)や量子計算におけるq-bit量子状態のconditional controlや情報複製の研究にも用いられるであろう。
1985年以来、QND測定の研究において、次のようなことを明らかにしてきた。
- 光の分野でQND測定を行う物理的系を初めて提案した。これは光Kerr効果を用いる方法で、その系がQND測定の条件を満たしていることの証明の他、測定誤差や位相の乱し具合についての理論的考察を行った。
- しかし現実の系には光損失や余計な雑音が皆無ということはあり得ない。したがって本来の意味のQND測定は現実にはあり得ないが、そう言ってしまうと初めからQND測定を考える意義がなくなる。そこで損失や雑音がある場合のQND測定についての一般論を展開し、さらに、光Kerr媒質を使う場合にどのくらいの損失が許されるかについて理論的解析を行った。
- 実験的研究として、光ファイバーを光Kerr媒質として使った干渉計を組み、QND測定の可能性を検討し、いくつかの干渉計の安定性の比較を行った。この実験では量子レベルの計測にまでは至らなかったが、光ファイバーを使った場合の問題点が明らかになった。特に導波性ブリルアン散乱が問題であることがわかり、その性質についての新しい知見がいくつか得られた。
- ところで上記のような系は、レーザーから出射した光がビームスプリッターや吸収体や非線形光学媒質を経てディテクターへ吸い込まれており、周期的境界条件が成り立たない空間を光ビームが変化しつつ流れている。しかるに従来の量子力学はハミルトン形式すなわち閉じた系の一斉の時間発展を追う方法であり、実験状況と相性が悪い。本研究では光ビームの空間伝搬を扱う方法も開発し、これにより、系の光物性が光子のコヒーレンス長より短い空間依存性を持つ場合の光伝搬や、系の外部から光が入り外部へ出ていく場合の量子光学的記述を自然に行うことができるようにした。
この博士論文は上記に述べた1985〜1990年の研究をまとめたものである。内容は以下の通りである。